「オンライン・オピニオン」



情報空間の健全性
ドローンについて
ネットと選挙
闇バイト、トランプ
原発と津波
兵庫県民とSNS
米国は病んでいる
高齢になるほど幸せに
政治をゼロから立て直す
もろい民主主義


2661.情報空間の健全性 11.21

今回の前書きは朝日新聞(11.20)オピニオン&フォーラム、情報空間の健全性とは、です。
「高度なウソ見抜く技術 国の出番」東大大学院教授 宍戸常寿(じょうじ)から

―デジタル空間の現状をどう認識していますか。

「表現の自由が確保される一方で、偽情報・誤情報があふれ、健全な情報の流通が阻害されています。原因の一つがインターネット上のアテンションエコノミー。情報の質ではなく、人々の興味に経済的な価値を置くということです。そのため、特定の情報に影響されやすい人に向けて効果的に情報が発信されています」

「さらにそれを受け止めた人がSNSの中で拡散し、真偽にかかわらず、その情報を正しいと信じる人が増えている。『フィルターバブル』の問題です。自分の信念を変えることなく、強固にするメカニズムが生まれ、これまでの世論・形成プロセスや、『思想の自由市場』の働きが変わってきています」

―具体的にはどんな問題が起きていますか。

「災害のたび、デマの問題が指摘されてきました。元日の能登半島池震の直後にX(旧ツイッター)などのSNSに虚偽の投稿が相次ぎました。また、今回の総選挙では幸い、偽情報・誤情報の流布・拡散が問題化しませんでしたが、将来は、生成AIの発達で悪意のある偽情報により選挙が混乱する可能性がある。実際に起きた時に慌てふためかないよう、小康状態にあるいまから問題の所在を明らかにし、情報流通の健全 性を議論しておく必要があります」

―偽情報・誤情報に対し、国家はどんな役割を果たすべきですか。

「それに先立ち、誹謗中傷などインターネット上の櫛利侵害に対応するため、情報流通プラットフォーム対処法ができました。大手 SNS事業者に権利侵害情報の削除の迅速化を求めています。同時に、ただ削るだけではなく、表現の自由に配慮した運用ルールを作って下さい、責任者を置いて下さい、と求めています。過剰な削除も過小な削除も困るので運用の透明化を求めています」

(以下略)

(聞き手編集委員・豊秀一)

コメント:歯に衣着せず言わせて貰えば、このインタビューでは常識的で、解決案を提示したとは言い難い。私が一番知りたいことは、現象、事件の正確な情報をどうすれば入手できるのか。また情報提供者の信頼性、並びにその思想傾向をどうやって判断したらよいのかである。現象や事件の意味を判断し、活用できるのはメディアでもなければ、AIでもなく、我々個々の国民だからである。


ところで同じオピニオンからもう一件、インタビューがあります。こちらの方が立ち位置は明確です。
「実害調べずに官民で抑制危うい」弁護士 楊井人文(やないひとふみ)から

―総務省の有識者検討会が、ネット上の偽・誤情報や誹謗中憾について対策案をまとめました。プラットフォーム事業者や行政、新聞・テレビをはじめとする伝統メディアなどのステークホルダー(利害関係者)が協議会を設置し連携することを提案しました。

「まず大きな問題は、偽・誤情報の具体的実害を丁寧に調査、把握することなく、あいまいな理念やリスク認識の下、削除を含む情報流通の『抑制』を促進しようとしている点です」

「有識者検討会は、偽情報が社会的混乱や民主主義への悪影響をもたらすとした上で、『安心かつ安全で信頼できる情報流通空間』を実現し、『情報流通の健全性』確保を目指すという理念を示しました」

「あまりに漢然とした、いかようにでも解釈できてしまう理念ではないでしょうか。これが法制度に採用されれば、権威主義国家が行っているような、公権力による情報への介入や排除が正当化されかねません」

「更に問題なのは、公職者など官民のステークホルダーも偽・誤情報の発信主体となり得ることを、十分考慮していない点です」

―しかし、誤った事実や考えは反論や批判によって淘汰されるという「表現の自由市場」論ではもはや不十分で、悪貨が良貨も駆逐してしまうほど事態が悪化しているというのが、有識者検討会の問題意識の根底にあるようです。

「何が良貨か悪貨なのかは、情報の受け手が判断することです。偽・誤情報といっても様々な種類があります。なりすまし・詐欺広告といった『権利侵害など実害を伴う違法な情報』と『違法性のない偽・誤情報』は明確に区分けし、一般論ではなく実態を踏まえた丁寧な議論が必要です」

「有識者検討会では、能登半島地震での偽情報の拡散が問題視されました。SNSを契機とした虚偽通報で救助が妨害された事例があったか、総務省消防庁に情報公開請求しましたが、そうした事例を確認した文書はありませんでした」 (中略)

―総務省が昨年実施した意識調査によれば、「自由な情報公開やアクセスを制限しても、虚偽情報を制限すべきだ」と答えた人が、「情報公開やアクセスの自由は保護されるべきだ」という人を上回りました。

「政府機関が情報の真偽を判断し、情報を統制するのは一番の悪手です。一方でEUのように、生成AIによるコンテンツの明記を義務づける規制なら表現内容に踏み込まないので前向きに検討すべきです」

?対策案では、政府や自治体の責務として「ファクトチェック (FC)の推進」が盛り込まれました。

「FCはジャーナリズムの一部だと、EC先進国では考えられています。各国ではメディアや大学、市民団体がその担い手。政府や政治家が発信する言説の真偽も検証する役割がある以上、権力からの独立性は極めて重要な要素です。政府が特定のFC団体を支援すべきでもありません」

?最終的に取りまとめられた対策では、 FC組織の独立性が盛り込まれましたが、なお政府の動きを瞥戒していますね 。

「FC団体や伝統メディアを含めて官民一体で対策を推進するという発想自体が危うい。情報空間の『健全性』の名の下で今後、民間から政府機関と目立たない形で連携しつつ、第三者を装って展開される『官製FC』が出てくる恐れもあります」

?兵庫県知車選をめぐっても、SNSの影響がとりざたされています。
「『フェイクニュース蔓延のせい+SNSの悪影響だ』といった短絡的な総括が飛び交い始めています。今後、選挙中のデマを取り締まるべきだという声が高まり、政府の『対策』強化に利用されるおそれもあります。選挙結果と偽・誤情報に結び付ける言説には注意が必要です」
(聞き手 石川智也)

コメント:本当に重要な事は、SNSが流言飛語の源になり、根拠のない扇動で、大勢の犠牲者が出るような事態を避ける事です。それともう一つ、誹謗中傷には毅然とした態度で臨むと同時に、またそれで実害(自死や失職など)が出れば、被害者が民事・刑事で加害者の責任を訴追できる仕組みを作ることです。

関連記事:斎藤の対抗馬へのいやがらせ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3896585e5449f68f209d59fa52bc89d10924ec09
コメント:あまりにも幼稚で下劣。さすが斎藤蛇彦の支援者だけのことはある。

関連記事:知事選、SNSでは、真偽よりインパクト。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/368123

関連記事:公益通報、兵庫県対応に違反の可能性。刑事罰も。
https://digital.asahi.com/articles/ASSCM2R4WSCMUTFL00PM.html




2662.ドロ−ンについて 11.23

毎日つけている1行日記の、1年前の文を読み返していたら、去年の今頃、ドローンとのきっかけがあったことを思い出しました。理由は自宅と、自分の住んでいる地域を上空から撮影したいと思ったことです。但し、実はこれは誰にでも簡単にできることで、それはグーグルアースを使うことです。但しそのデータが最新であるという保証はありません。というより、かなり古いと思った方が間違いがないでしょう。いずれにせよ、年甲斐もなく玩具全般に関心があり、面白そうな玩具を見るとすぐに買い込む悪癖があり、お陰で使っていない部屋は、これまた使ったことのない玩具が山積みです。そういう流れの中で、ドローンは無視できない商品の一つでした。

しかしこれがそう簡単な代物ではなくて、どこでも飛ばせるものではないし、また飛行にはライセンスが必要だということも分かりました。免許と言っても、あくまでリモコン免許ですが、それでも規則は規則です。しかしこの1年、あっという間に、ドローンは玩具の枠を超え、被災地の検分、行方不明者の捜索、農薬の散布、最近は荷物の配達にも使われるようになり、都市の上空も飛行する関係上、航空法の法規則が適用されるし、複雑な操縦技術が必要であることは分かります。

そこで更に調べると、自宅の近くでは立川に教習所(?)があることが分かり、早速見に行きました。元は工場だったのか、広い建屋の二階部分を使い、その中に網で囲った空間があり、その中で飛ばせば確かに安全そうです。教習コースの受講費用は当時26万でしたが、今なら35万くらい掛かるでしょう。無論少ない金額ではないし、試験に受かる保証もありません。それでもライセンスがあれば安心して飛ばせるし、アルバイトの口もあるかもしれません。なにより人生最後の想い出(冥途の土産、高齢者の勲章)になるだろうと考えて一度は申し込んだのですが、それにしても合格率が50%では、高齢の自分は落ちる方の50%になるのはほぼ確実でしょう。それよりも、気力、体力が不足気味で、欠席せずに通い終える自信がなかったので、結局受講を諦めました。

本論に戻って、まずドローンの名前の由来ですが、これは飛んでいる蜂のような音がするからです。実際に飛ばして見るとブーンと言う大きな音がして、周囲に風が巻き起こります。地面が土なら、土ぼこりが舞い上がるでしょう。だから近くの人はゴーグルがあった方が安全です。ドローンがラジコン飛行機と違う最大の点は、ホバリング(空中で静止)できることです。低速で安定した飛行が誰にでも可能なら、魅力的な輸送手段です。ところで実はラジコン飛行機もライセンスは必要らしく、それは150mより高い場所での飛行に適用されるようです。

とにかくまず手元にドローンがない事には話が始まらない。そこで入門用の機体を10数万で入手しました。ここでライセンスはともかく、必ずやらなければならないのは機体の登録(届け出)です。そして問題は何と言っても操縦です。

数十年前にモーター式(バッテリー駆動)のラジコン飛行機を買ったことがあります。無論免許は要らない時代のことです。そして以前住んでいた場所の近所の畑で試験飛行したら、あれよとあれよという間に、電柱にぶつかり5分で短い飛行機人生を終えた経験があります。事故の原因は、たとえ玩具の模型飛行機でも、想像したより高速で移動することと、3次元移動の操縦感覚がつかめなかったからです。仮にこれがラジコンヘリだったら、破損した場合の損害は半端ではありません(何十年も前でもエンジン機で50万くらい)。

何を言いたいのかと言うと、ライセンスの要・不要に関わらず、ラジコン機なら、操作の基礎技術の習得は避けて通るわけにはいかないということです。しかも同じラジコン機でも、ラジコン自動車と決定的に違う点があります。それは自動車が平面上での移動なのに対して、そこに高さの要素が加わった3次元の移動になる点です。

話を分かりやすくするために、ラジコン自動車の話をすると、本物の自動車と、ラジコンカーの、操縦における決定的な相違は、自動車では操縦者(自分)が常に前を向いているが、ラジコンカーではそうではないという事です。自動車なら、ドライバーがハンドルを右に切れば、車は右にターンする。大きく切れば大きく曲がります。またそうでなければ怖くて運転できません。ところが、そのまままっすぐ後退するときは、勝手が異なります。バック運転で後ろを振り返りながら下がると、左右の感覚が逆になります。ハンドルを右に切れば、車は顔が向いている方向(即ち自動車の後方)の、左方向に曲がります。私はこの混乱を避けるために、自分の車には、上から自分の車を見下ろすように見える装置をつけており(カメラが車の4隅についていて、常時画像を合成している)、これを使い始めた時から、車庫入れが苦にならなくなりました。

この方向性の違和感がラジコン機の操縦の難しさの原因です。ラジコン自動車で,自分の立っている位置から前方に発車させれば、車は前進します。従ってリモコン装置の左右コントロールレバーを右に倒せば、ラジコンカーは右に曲がります。車とラジコンカーが違うのは、足で踏む装置が無いので、レバーを前に倒すと、前に加速し、後ろに倒せばバックすることです。但し問題はその先にあります。直進すれば行き当たる。いずれ戻ってこなければならない。その時には、操縦者がコントローラのレバーを右に倒すと、車は操縦者から見れば左に進むことになる。当然の現象ですが、そこに錯覚が起きる余地がある。

私はドローンの最初の試験飛行で、これに似た失敗をやりました。家の外で飛ばしてトラブルが起きるのは避けたい。そこで居間の真ん中に機体をおいて、機体から3mほど離れた場所でリモコンのスイッチを入れました。上昇と下降は前後右左とは関係が無いので、同じレバーの前倒しと後ろ倒しです。そして上昇レバーを、一回短く倒せば、自動的に1.5mの高さに上って、その場でホバリングを始めます。但しその時に、機体が前後左右どっちを向いているかが重要です。正確に把握しておかないと危ない。無論その場で回転させることは可能です。私は機体が私の方を向いていることに気が付かず、レバーを動かしたら(私の方に)飛び始めました。これはいかんと思い、機体を逆方向に動かそうと思い、反射的にレバーを向こう側に倒したら、それで更に前進を加速する結果となり、恩知らずのドローンは、飼い主の顔を直撃したのです。

衝突防止装置が付いているはずですが、仮に止まれという指令を機体に与えたとしても、勢い(イナーシャ)が付いていれば、急には止まれないでしょう。
車ならどの方向に向いているかは一目瞭然ですが、でもドローンの場合には、一見しただけでは、前後左右の区別がつけにくい。だから、常に機体がどちらの方向を向いているかを正確に掴んでおく必要があります。それに高さの情報が加わる。自動車に比べて、注意を払い、瞬時に決断すべき要素が2つも3つも増えるのです。それが操縦を難しくしています。

間もなく始まる空飛ぶ自動車は、つまるところ大型のドローンに過ぎません。ということは、操作する人間への負担が、少なくとも自動車タクシーの運転手よりは大きくなるということです。一方で、従来のエンジン付きの取材ヘリなどと違って、その差を補ってくれるものがあります。それが操縦の自動化で、言い換えれば人工知能です。障害物はドローンが自分で判断して迂回します。決められたコースを安全に移動しながら、自動で飛行します。例えば操縦者がドロ−ンを地面にぶつけようとしても(墜落)、人工知能がそれを許しません。しかもそれらの機能は、既に無線操縦のドローンでも適用されているものです。

今回の話の締めくくりは、結局玩具の話題です。操縦の練習をして、飛ばせるようにならなければ事実上、ドローンを使うことはできない。ところが30m以内に建物がないような場所もなかなかない。その結果、我が家のドローンはしまい込んだままになっています。そしてその後分かったのは、小型の100グラム以下の機体なら、飛行にライセンスは要らないということです。私の製品はカメラを内蔵し、スマホで動画の録画が可能なモデルで、ディスプレイのついたコントローラがついています。軽量機種にはカメラの機能がないことが多く、しかも電池の容量が少ないので、10分以上の飛行は無理です。最近では更に安価なものが出ており、それはボール大の籠の中にプロペラが内蔵されたものです。空中で静止できるボールと言ったところで、投げるとブーメランのように戻ってきます。都度充電して5分程度の飛行が可能です。全く新しい発想の玩具と言えます。

長くなりましたが、最後に言いたいことは、玩具でも、飛び道具であることに変わりはありません。誰もけがをしないように、細心の注意を払って楽しんで頂きたいということです。



2663.ネットと選挙 11.24

今回の前書きは週刊文春(11.28)
「斎藤知事を待ち受ける独りぼっちの執務室」から
(前略)
斎藤氏勝利の原動力として指摘されているのが、「SNS部隊」の存在だ。
「ネット空間で集まった斎藤氏支持者による有志の集まりです。彼らはLINE のオープンチャット機能を使って情報の“拡散指令”を出し、Xでのトレンド入りや『バズり』を発生させていました」

小誌は、実際にSNS部隊が使用していたオープンチャットの記録を多数人手した。参加者によると、部隊の人数は約四百人。彼らは「デジタルボランティア」と呼ばれ、Xやインスタグラム、YouTube、TikTokなどの媒体ごとに、拡散させたい情報や動画を共有。それぞれのアカウントで発信していた。

さらには、対立候補のネガティブキャンペーンを促すような、こんな提案も。
〈稲村さんは外国人参政権、移民政策贅成。夫婦別姓などGHQに洗脳された反日左翼ですけど〜それを柔らかく発信しますか?〉(※稲村陣営は内容を「デマ」と否定)

SNS部隊に参加していたのは、兵庫県民だけではない。東京や大阪といった県外からの参加者も多く見られ、中には、〈東京から応援参戦しますーペンラ(ペンライト) も持って行きます〉
と、アイドルのコンサートさながらの街頭演説への参戦表明もあった。

「これは“推し活”ビジネスですよ」
作家の橘玲氏はこう喝破する。

「推し活とは、アイドルなどの“推し”に自身のアイデンティティを融合させるこ と。斎藤氏は巧まずして、不信任というどん底から下剋上を果たす、まるで少年漫画のヒーローのようなストーリーをつくりだし、人々が自己を投影しやすい土壌が生まれた。ただ今回の選挙は、情報の質よりも人々の関心を集め、SNSを掌握すれば権力を握れる可能性を示したことにもなる」

熱狂するSNS。こうした状況は、今年七月の東京都知事選での前安芸高田市長・石丸伸二氏をめぐるムーブメントとも重なる。
「実際、斎藤氏を支持するSNSアカウントと、石丸氏支持者のアカウントは重複しているという分析もあります」(ウェブニュース記者)

石丸氏の“選挙参謀”である藤川晋之助氏は以前、小誌に「斎藤氏から協力依頼があったが断った」と明かしていた。改めて聞くと、「選対に加わるなど、表立っての手伝いは一切ない。裏方のSNSの手伝いとかだから、やっているうちには人らないかな。SNSでの石丸部隊が、国民民主党の玉木雄一郎代表を支援する玉木部隊になり、それが斎藤部隊になったのは確か。ウチの関係者の部隊は30人ぐらい参加していました」

SNS部隊による推し活、石丸部隊の参戦に加えもう一つ、斎藤氏勝利の原動力となった要素がある。

「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏だ。
「立花氏は当選を目指さず斎藤氏を支援するという立場で知事選に出馬し、選挙演説やYouTubeでX氏の個人情報を暴露。故人の尊厳に関わる可能性があり,かつ告発内容の信ぴょう性には影響がないため、メディアが取り上げることはありませんでしたが、立花氏は『X氏は個人情報が公表されるのを恥じたため自死した』などと根拠不明言説を発信。これがネット空間で『メディアは真実を伝えない』『メディアが批判していた斎藤氏は、本当は誠実な人間だ』と発展した」(前出・県政担当記者)

対立候補だった稲村氏も、選挙戦をこう振り返る。
「ネットでの立花さんの影響は感じました。(中略)私はネットで、 最初は『反日極左』と批判され、途中からは既得権の象徴のように言われたことには違和感がありました。 極左なら反権力なので、既得権は持たないはずですが」

専門家も立花氏の影響を認める。東大大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授が分折する。

「選挙期間中、X上での一日あたりの『言及数』(支持・不支持を問わず名前が含まれている投稿)を比較すると、斎藤氏が稲村氏の2.5倍に達していた。この『言及』が支持に繋がったのではないでしょうか。中でも『斎藤氏支持』の投稿が一気に増えたのは10月27日頃から。立花氏がYouTube動画で、斎藤氏支持での出馬会見をアップした時期です」

つまり、立花氏の暴露によって一気に風向きが変化したのだ。だが、選挙の争点になるはずだった文書問題や斎藤県政の評価、政策論争は果たしてそこにあったのか。立花氏に取材すると、こう語る。

「僕は一カ月前までは斎藤さんが白か黒かはわからなかったけど、N党の国会議員や今回(県知事出馬の)おカネを出してくれた会社社長が『おかしい』って言い出して。それなら斎藤さんの発信力をちょっと助けてあげればいいかなと。それに、真実じゃない情報で知事が辞めさせられるのは、止めなければならない。だから別に、斎藤さんの政策にすごく感銘を受けているとかはないんですよね」
(中略)

立花氏の発信力により人々が斎藤氏支持に傾いた一連の現象を、前出の橘氏はこう読み解く。

「『トランプ現象』とよく似ています。米国でも、トランプを批判する既存メディアに対する不信感が膨らみ、『メディアが伝えない真実を知っている』と考える支持者によってトランブ氏が押し上げられた。現実社会は様々な思惑が絡む複雑なものですが『トランブ氏がディープステートと戦っている』という単純な善悪二元論を提示されると、霧が晴れたとばかりに飛びついてしまう。今回の知事選では、例えば斎藤氏が地元イベントでボランティアを怒鳴りつけたという報道に対して、その場にいた担当 者が『そのような事実はない』と否定した。するとこれが一般化されて、『メディア報道は全てデマで、既得権益側が斎藤氏を追い落とそうとしている』という、人々にとって分かりやすい構図がつくられていく」

だが、前代未聞の選挙戦は現実社会に傷跡も残した。「投開票の翌日、文書問題を追及してきた百条委員会のメンバーでもあった竹内英明県議が議員辞職した。SNS上での誹謗中傷によって家族が参ってしまい、本人も精神的にダウンしてしまったのです。さらに同日、百条委員会の奥谷謙一委員長が会見を開き、『選拳期開中、立花氏が自宅前で行った街頭演説の中で脅迫された』と言及。立花氏から演説で『ひきこもってないで出て来いよ』『これ以上脅して奥谷が自死しても困るので、これくらいにしておく』と言われたと訴えた。これに対して立花氏は『選挙演説しただけ』と反論しています」(県議)

そんな中、斎藤氏を待ち受けるのは、九月末の失職時には誰ひとり見送りに立たなかった兵庫県庁だ。アンケートに約四割の職員が「斎藤氏のパワハラを見聞きしたことがある」と回答した県庁では、SNS上で多くの支援者を得た斎藤氏も“独りぼっち“に逆戻りだという。県職員が語る。

「みんなネット上の情報を鵜呑みにするんですね。県庁内は沈鬱な状況で、周囲からは『やる気がなくなった』『本庁から異動したい』『辞めたい』といった声が上がっている」

一体なぜか。元県幹部が嘆息する。

「現役の県幹部たちは『地方機関に出たい』って言っていますよ。メディアではずっとパワハラ疑惑ばかりがクローズアップされてきましたが、県職員たちが斎藤氏に対して一番不満に思っていたのは『知事の能力不足で、仕事がうまく進まない』ということだった。職員からよく聞いていたのは 『仕事の話を聞いてくれない』ということ。歴代知事は職員からの相談や報告を紙で提出させ、自宅でそれを読んで返事を伝えるなどのコミュニケーションを取っていた。斎藤氏はその慣例を一切やめ、夕方に定時で帰ってしまう。政策論議についても同様で、コミュニケーションが足りないために政策が深まらないのです」

それだけではない。斎藤氏には、告発文書でも言及された四人組の側近たちがいた。辞職した片山安孝副知事をはじめ、県職員の総務部長、産業労働部長、若者・Z世代応援等調整担当理事。かつて斎藤氏が総務官僚として宮城県に出向していたころに仲良くなったとされる、通称牛タン倶楽部だ。斎藤氏は県庁職員とのコミュニケーションを拒む一方で、四人組への依存を深めていた。だがー。

「知事の失職までに、片山氏が辞職しただけでなく、総務部長も理事も任を離れた。牛タン倶楽部は事実上崩壊したと見られています。今さら再結成したところで、他の県庁職員はついてこないでしょう」(前出・県政担当記者)

実際、メンバーの一人だった産業労働部長を直撃すると、ボスの帰還を歓迎する気配は全くないのだ。

―斎藤さんが再選。また幹部に登用されるのでは?
「別に出世したいわけでもなんでもないですけどね。 向いてませんのでね」

―斎藤さんをまた支えたい?
「支えてきたってよう言われてますけど、むしろ逆。 要求高いことを求められて、こなすのに必死でしたから。私、仙台で知事と会うたことない。牛タン食べてないんですよ(笑)」

さらに、四人組の一員だった元総務部長には副知事への起用説も浮上していた。だが本人に尋ねると、「ほんまに腹立ちますわ。そんなわけない」
と全否定するのだった。さらに斎藤氏にとって今後の課題となるのは、九月に全会一致で不信任を突きつけたばかりの県議会との向きあい方だ。

「県知事選では、選挙期間中に斎藤氏の猛追が報じられると、自民や維新の一部で『だから不信任決議はイヤだったんだ』と泣き言を言う県議も現れた。(中略)
ただ、民意を得た斎藤氏に媚びを売る県議は現在、10人に満たない。86人いる兵庫県議の九割は、基本的に反斎藤の立場です。今後の県議会運営は一筋縄ではいきませ ん」(前出・県政担当記者)(中略)

だが、斎藤氏を追及する百条委員会は、まだ続いている。
「引き続き、斎藤氏をめぐる疑惑の核心である、昨年11月に実施された阪神・オリックス優勝パレードなどについて質疑が行われる予定で、知事選が終わるまで控えられていた斎藤氏本人の証人尋問も再び行われます。新たな事実が明らかになれば、再び県議会と対立することも十分あり得る」(前出・県政担当記者)

ネット空閥での人気とは裏腹に、現実社会では県議会や県職員たちとの関係性に光明が見えない斎藤氏。 独りぼっちの戦いは続く。

コメント:本件に関連してもう一つ記事があります。何故か全然TVでは取り上げていませんが、斎藤から頼まれてSNSを支援した企業に、斎藤側から金が支払われたというものです。もしそれが事実なら、選挙の公平性を損なう大問題です。
https://digital.asahi.com/articles/ASSCQ45KWSCQPTIL015M.html


関連記事。朝日新聞(11.23)社説
「選挙と立花氏 言動を看過できない」
 選挙に立候補し、自らの当選を目指さず他候補を応援する。政見放送や街頭演説など候補者に認められた権利を使い、事実とは言い難い内容を含む主張を、威圧的な言動もまじえて発信する。
 兵庫県知事選で、そんな異例の「選挙運動」が展開された。事態を放置すれば、民主政治の土台である選挙の根幹が揺らぎかねない。
 斎藤元彦氏の知事としての資質や県政に関する疑惑を元県民局長(故人)が告発した問題で、調査している県議会百条委員会が再開した。会合後の会見でメンバーが訴えたのは、知事選に立候補・落選した立花孝志氏から受けた、脅迫めいた言動だった。
 「出てこい」「あまり脅しても自死されたら困るので、これくらいにしておく」。委員長の奥谷謙一県議は、自宅兼事務所前での立花氏の演説の発言を語った。
 立花氏に名指しされた県議のうち、一人は辞職した。SNS上の様々な投稿もあり、不安を募らせた家族の安全を優先し身を引いたという。
 県議側が「言葉の暴力」と受け止めたのももっともだ。
 県議会による斎藤氏の不信任決議を受けた出直し知事選で、失職・立候補した斎藤氏を応援すると立花氏は公言。斎藤氏の前後に同じ場所で演説するなどした。県議会、特に百条委を厳しく批判し、その様子をネットに投稿した。
 主張の内容も問われる。百条委は、元県民局長が残した私的な文書について、個人情報保護の観点から調査対象外とし、証人がそれに触れた場合は発言を制止した。その対応について立花氏は「百条委は情報を隠している」と演説、ネットで拡散した。
 立花氏の活動が斎藤氏当選の一因となったとの見方は多い。同様のことが繰り返されれば、選挙という仕組みの正統性が損なわれかねない。
 まず、選挙の公平性をどう確保するか。公職選挙法は、候補者1人あたりのポスターや選挙カーの数などを制限する。だが、自らの当選は目指さず他候補を応援すれば、その候補者に有利に働きうる。
 何より、誹謗(ひぼう)中傷や事実と異なる情報の流通をどう防ぐか。選挙でもネットの力が急速に増しており、それに即した規範作りは喫緊の課題だ。
 立花氏の政党は先の東京都知事選で、「寄付」をすれば誰でも自由にポスターを貼らせるとして、ポスターの枠を実質的に「販売」した。
 選挙の自由を大切にしながら、法が想定しない事態にどう対応するか。兵庫や東京の問題を、一地方のできごとで終わらせてはならない。

コメント:今回は二件ともほぼ全文のご紹介となった。この二つの記事で、なんとも釈然としなかった斎藤再選の背景が理解できたように思う。後は百条委員会の調査結果を待つしかないが、立花のような『豚野郎』の強迫などに、絶対に負けないでほしい。
斎藤とトランプの再選は、日本の、いや世界の民主主義ががけっぷちに立っていることを強く意識させるものである。現状の選挙制度が単純多数決に基づいており、いかに有権者の判断から理性や常識や倫理の要素が欠落していても、それを得票数に反映させる手段がないからである。しかも論理的、倫理的に、再選を見直した時に、この二つの選挙が、理性的な判断で行われたとは到底信じがたいのである。
西部開拓時代に牛泥棒を縛り首にしたときは、民衆の吊るせの怒号だけが判断基準だった。証拠も反論もへったくれもなく、処刑が強行された。裁判さえ行われなかった。
今回トランプを選んだ米国民からは、牛泥棒の処刑の怒号に似たものを感じる。トランプが選ばれた理由は、民主主義などそっちのけで、女性の人権を認めないキリスト教原理主義の復活と、目先の経済問題だった。人権、自由、平等という民主主義の理念等は、どこかに吹き飛んでしまった。無論憲法も無視。貧困層からは民主主義の理想など、中間層だけの贅沢だと思われ、ハリスは票を失った。
斎藤の再選も、立花のフェイク情報と悪質な宣伝、ネット上の偏向した意見によるもので、事実や理性に基づくものではない。原動力は気分と勢いだけ。
なお上記の週刊文春の記事は極めて重要な示唆をしている。それはネットで特定の候補者を応援する専門の部隊が存在することだ。彼らがあることないことを書くことで、選挙結果を左右できるという恐ろしい現実である。ネットを通じた世論操作、もしくは扇動。これこそがネット社会の最大の負の側面である。扇動あり、根拠のない誹謗中傷あり、また逆に理由のない称賛もある。それは戦争に匹敵する災害(人災)をもたらす恐れがある。
ネットが大きな影響力を持つことが、トランプと斎藤の再選で如実に示された以上、日本の憲法、民放の専門家、ジャーナリスト、メディアの責任者は、至急、ネットの弊害(扇動、誹謗中傷、フェイク情報)から国民(とその良識、憲法)を守るための第三者委員会を立ち上げる必要がある。人類を存続させ、ネット被害から市民を守るために絶対に必要な委員会である。
私は命ある限り、ネットの暴力と戦い続ける覚悟である。反日極左、大いに結構。それでも、極右の者達の、差別主義、権威主義、売国奴より遥かにましではないか。
ネトユヨのヘイトスピーチだ毛でも大いに迷惑しているのに、まともな市民は、今度は得体の知れないネット民(無党派層?愉快犯?)迄相手にしなければならなくなるのだろうか。


続いて関連記事を2件、週刊新潮(11.28)から
「パワハラ斎藤知事に熱狂した兵庫県民の深層心理」
(前略)
選挙戦を評して「SNS の勝利」「大メディアの敗北」といったフレーズが喧伝されるが、話はそう単純でもないようだ。

取材に当たった民放キー局記者がこう話す。

「今回は異例ずくめの選挙となりました。齋藤陣営は SNSやユーチューブなどのネットを駆使して支持を取り込み、当初の稲村氏優勢の下馬評を引っくり返して逆転勝利を収めた。ただ一方で選挙戦の主舞台がSNSなどに移ったことで、かつてないほど大量のデマや誹膀中傷も飛び交いました」
事実、選挙戦終盤に稲村陣営の選対関係者に聞くと、こんな話を打ち明けられた。 「とにかくデマや暴言が酷い。稲村は外国人参政権に賛成したことはないのに、推進派と一方的にSNS上で決めつけられ、売国奴などといった誹謗中傷が殺到した。なかにはウンチの写真を添付して,これでも食ってろ、といった投稿もありました」

今回の選挙を支配したのが真偽不明のものも含めたネット上の言説だった点は、NHKの出口調査にも表われている。

投累の参考にしたものと して「SNSや動画サイト」が30%でトップを占め、新聞やテレビの24%を引き離した。そしてSNSや動画サイトを参考にした人の 7割以上が、齋藤氏に投票したと回答したのだ。(中略)

不思議なのは、新聞・テレビの報道より、SNSなどネット上の情報を有権者の多くが信じたことだが、

「ネットの情報は玉石混交で信用できないもののほうが多いといった認識がこれまでは主流を占めていました。ですが、ここ1〜2年 で“真実はネットにこそある”といった風潮が強まりつつあると感じています。ネット黎明期に盛んに叫ばれたフレーズですが、既存メディアヘの不信の高まりとともに、再び台頭の兆しを見せ始めている」(井上氏)(中略)

「多くの人がマスコミの報道より、SNS上での過激な言説を信じ、それが得票に結びついたという点では、今回の知事選は先のアメリカ大統領選と似た構造を示しています。有権者の心を動かすため、ネット空間における情報戦は今後、ますます激しさを増していくでしょうが、その真贋の見極めという課題は残されたままです」(前出・民放記者)

真偽不明の情報を鵜呑みにして熱狂した人々。ネットを見ない人は“世も末”と感じているに違いない。(以下略)

コメント:ネットを見る者でも、世も末と感じています。虚構と架空の世界への没入。でもそれは現実逃避ではないのか。酔生夢死の総白痴時代。魂を抜く悪魔のツール、SNS。
関連記事:情動社会、どう生きる。
https://mainichi.jp/articles/20241122/k00/00m/010/251000c


もう一本はそのものずばり、SNSの弊害です。
「オーストラリアで16歳未満SNS禁止へ。殺人・いじめ自殺・薬物わいせつ・拒食症、怖ろしすぎる現地報告」

国家がSNSを禁止する世界初の法律が具現しようとしている。実際は16歳未満という 限定がつくが、そこにこそ、かの国が抱える恐ろし過ぎる現実があった。ネットが引き起こす数々の病理的な出来事。日本も対岸の火事とばかりに無関心ではいられないのだ。

「洒」や「タバコ」、「ギャンブル」が未成年で合法という国は、ほとんどないだろう。これらは言うまでもなく、未成熟な子供たちの心身の健康に多大なる影響を及ぼす。こうしたリスクからいかに子供たちを守るかとの課題に各国が取り組むなか、遂に「SNS」が 規制される時代になったということか。

今月末を目途に、オーストラリアの議会に提出される見込みの「SNS禁止法案」。対象となるサービスは、旧ツィッターのXやフェイスブック、インスタグラムや動画投稿アプリの TikTokと多岐にわたる。16歳未満の青少年は、たとえ親の同意があってもSNSへのアクセスを禁止する厳しい法案で、上下両院で可決すれば1年の猶予期間を経て施行される。

親や子供など利用者側に罰則規定はないが、SNS サービスを提供する事業者へは16歳未満のアクセス防止措置を義務づけ、違反すれば罰金を科すというのだ。(中略)

世界でも初となる法案が提出される背景には、オーストラリアが抱える深刻なSNSの闇がありそうだ。今のところ現地の細かな事情は漏れ伝わってこないが、実際のところはどうなのだろうか。

のベ20年ほど現地に在住、日本人留学生を対象にしたエージェント業を営む日本人男性に聞くと、

「妻との間に9歳の息子が現地の小学校に通っています。息子はTikTokやYouTubeに夢中で、朝食の時もスマホを見続けているほどですが、過度に女性の胸が強調されたアニメキャラなどの動画が流れてくるのが気になりますね。子供たち同士の連絡にもSNSを使っている様子です、最近は刃物を使った事件が次々に起きていて、SNSを介して凶器を入手しているのではないかと心配です」

今年だけでも、4月にオーストラリア最大の都市、シドニーのショッビングモールで、40歳の男が刃物で無差別に6人を殺害する事件が発生。その2日後には、シドニー近郊のキリスト教会で、15歳の少年が聖職者らを負傷させる事件が起きているのだ。 (中略)

ただでさえ視野が狭くなりがちな子供を、SNSは悪魔の手先のように良からぬ方向へと導くのだ。(以下略)

コメント:オーストラリア政府の判断は正しいと思う。基本的に、無理やり人を結びつけ、情報の信ぴょう性の保障もないSNSなどいらないのである。少なくも私は、なくても少しも困らない。



2664.闇バイト、トランプ 11.24

今回の前書きは週刊文春(11.28)から4件です。

「闇バイト潜入取材 凶悪エントリーシートを公開する」から

(前略)「他に聞きたいことはありますか」
そこで記者は思い切ってこんなことを尋ねてみた。
ータタキをやるにしても、人殺しまではやりたくないんですけど…。

「正直、殺すか、暴行で終わるかは、そこの家主さん次第なので。別に、皆さん最初から殺すつもりはないですからね。やむを得ない場合ですよ」

そして「フォーマ ット」と称するエントリーシートの記入を求められたのである。電話を切った後、男から送られてきたフォーマットには、名前や住所の記入だけでなく、次のような項目がズラリと並んでいた.

【最寄駅】
【所持金】
【勤務開始日】
【勤務予定期問】
【出張可不可】
【身分証の種類】
【実家住所】
【両親の名前】
【職莱】
【動務先】
【勤務先住所】

その上、男は電話でさらなる要求もしてきた。
「身分証明書の表裏と自分の顔が映った動画。さらに自宅マンションの外観と郵便物の写真。それと、マンション名が分かる看板と自分自身を動画で撮影しながら、あなたの部屋まで入って下さい。その後、自分の位置情報をスクリーンショットで送って欲しいです」
このように絶対に偽造が出来ないよう何重ものセキュリティチェックがなされているのだ。小誌記者はこれ以上の潜入を諦め、ここで断りを入れた。
―やっぱり彼女に止められたので考え直したい。
「それなら絶対やめた方がいいです。ほぼ捕まるので。 彼女さん、悲しみますよ」
鬼の目にも涙とばかりに、こちらの気持ちを汲み取ってくるのである。
(中略)

また、それに加えて裏社会でも最近地殻変動が起きつつあるという。
「最近、闇バイトに暴力団組員が面白がって応募し、実際に面接まで漕ぎつけるケースも多い。彼らがその場でリクルーターや指示役の男を攫って脅し、稼ぎをそのまま分捕ってしまう闇バイト狩りの例まで発生している」
闇バイトの闇は想像以上に深い。


町山智浩の言霊USA「Bro Vote」から
(前略)
ところが結果は接戦どころかトランプの圧勝に終わった。たしかにハリスは圧倒的な女性票を勝ち取った。だが、それを上回る数の男性がトランプに投票した。トランブが票を失ったはずのラテン系も男性の過半数はトランブに投票した。ハリスと同じアフリカ系も男性の2割はトランプに投票した。アメリカは人種ではなく男と女で分斯されていたのだ。

また、Z世代(18〜27歳)も今までは民主党支持が多かったが、今回、男性票がトランプに集まった。 彼らは固定電話を持たないので世論調査に引っかかりにくかった。「隠れトランプ」は彼らだった。

トランブ勝利の後、トランプ陣営が20代男子を取り込んだ戦略が明らかになった。それが実に面白い。(中略)

ワイルズはさっそく取り込むベきネット・インフルエンサーのリストが作られた。

今の若者はテレビなんて観ない。持ってもいない。ネットしか観ない。トランプはテレビは全部断って、息子がすすめる人気インフルエンサーたちの配信に次々と出演した。

あるスポーツ会場にも現れた。何もしないで、ただ、そこにいるだけでよかった。男の子たちはそれで「トランプは俺たちの仲間だ」と思うから。 トランプとBro(兄弟)になったインフルエンサーたちはファンに「投票に行こうぜ、 Bro!」と呼びかけた。(以下略)



3つ目は能町みね子の言葉尻とらえ隊「泣きそうなくらい嬉しいお言葉」から
(前略)
11月8日、松本人志は、自らの性加害報道について5億 5千万円の法外な賠償金と謝 罪広告を求めた訴えを取り下げた。何一つ要求が通らなかったので、実質的に負け。
(中略)しかし、その件についての コメントでは(中略)初めから無いことがほぼ分かっていた「物的証拠」について最初に言及して潔白性を仄めかそうとしたり、被害を訴えた女性を探偵に尾行させたことがあるのに「参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば」お詫びする、と謝罪対象が仮定だったり、往生際が悪い。(中略)

分断の向こうでは見える仕景色が全く違う。くしくもXでは、兵庫県の元知事・斎藤元彦が虚報で貶められたとかたくなに信じる人たちによる、「#さいとうさん生まれてくれてありがとう」という宗教チックなハッシュタグがバズリ、気味の悪い状況になっている。

さて、一連の記事を改めて読んで、実名と顔を出して過去の被害を告白した人がいた のを思い出した.現在はフードコーディネーターの大塚里香。Xを見ると、最近(松本側が)被害者女性に謝罪する方針だそうです、(略)おめでとうございます!」というリプライをもらい「泣きそうなくらい嬉しいお言葉ありがとうございます」と返している。

大塚里香は、告発した頃、松本ファンから「売名」「金夕力リ」などと大変な中傷を受けていたが、叩いた人たちも大半はもう名前も憶えていないだろう。言うまでもなく、こんなことで注目されて儲かるわけがない。実際、今回のやりとりも全く読まれていない。孤独な、自分の尊厳のためだけの闘いで、松本が謝罪したところで具体的な利益なんか何もないけれど、それでも尊厳が回復されるのは泣きそうなくらい嬉しいのだ。

コメント:この事件は、単なる騒動ではなく、実際に人権を蹂躙された者が存在するのである。それは単なる謝罪で済ませられるようなものではない。とは言え、ケチで有名な松本のことだ。うやむやで済まそうとするかもしれない。


4番目は、池上彰のそこからですか、
「トランプによる米連邦政府破壊へ」から
(前略)実は民主党のバイデン政権が政府支出を増やすために国債を新規に発行しようとしたときには議会の共和党が激しく抵抗したのですが、大統領が替わったら、態度を豹変させるはずです。党派性むき出しですね。
トランブ政権で国債を大量に発行すれば、国債の供給が増えるわけですから、「需要と供給」の関係で、これまでに発行されて売買されている米国債の値段が下がる可能性があります。値段が下がっても満期になって戻ってくる価格に変動はありませんから、売買価格と額面価格の差は広がります。つまり買った後、満期になって戻ってくる金額が増えるのです。これは利子が増えることですから、金利が上昇します。アメリカの金利は上昇しますが、日本の金利は変わらない。結果として日米の金利差が広がり、円安が進むだろう。そう考えた投資家たちが円を売ってドルを買うという行動に出た結果、円安が進んだのです。(中略)つまりトリプルレッドになったことで円安が進んだのです。

トランブが大統領になるのは来年 1月10日ですが、すでに新しい政権人事が次々に発表されています。アメリカの場合、大統領が国務長官や国防長官の人事を決めても、議会の上院が承認しなければ就任できません。でも、上院が共和党の多数派になったことで、トランプ人事はスムーズに決まるでしょう。

ところが、その人事構想が、ビックリすることばかりなのです。新政権の人事の目玉はイーロン・マスクの起用です。トランプは新たに「政府効率化省」を設立すると発表しました。(中略)要は「この役所を潰せ、この役所の人員を半減させろ、こんな規制はやめろ」などという提言をして、建国150年にあたる2026年7月までに政府を大胆に改革する計画です。これをトランプは「現代のマンハッタン計画だ」と称しました。マンハッタン計画とは、広島と長崎に投下された原爆の開発計画のこと。さも素晴らしい計画だったかのようなトランブの言い方には、日本人として複悪感を抱きますが、問題は、その中身です。

イーロン・マスクといえば、ツィッター社を買収してXに名称を変更した際、なんと社員の75%をクビにしたのです。トランプは、その実績を買って、連邦政府の役人を大幅に減らそうとしているのです。(中略)

トランブ本人も再選されたら教育省を廃止すると宣言していますから、役所の数は減るのでしょう。
敦育省といえば、日本の文科省に相当します。子どもの教育方針は親が決めることであり、国に口出しされたくないというわけです。

マスクと共に任命されるのがビベック・ラマスラミです。(中略)彼も「連邦政府職員の75%をクビにする」と言っていますが、さらに鵞くべきは、「FB1を廃止する」と公言していることです。

FB1といえば、2016年にトランブが大統領に当選したとき、ロシアによる不正な介入があったのではないかと捜査に入りました。トランブは「俺の当選にケチをつけた」 とFBIを憎み、報復のためにFBIを廃止しようとしているのです。(中略)

連邦政府の役人は数えるほどしか残らず、FB1がなくなって司法省が骨抜き。そうなれば、犯罪のやり放題になりかねません。連邦政府が崩壊に向かう姿を見せられることになるのでしょうか。他国のこととはいえ、恐怖を覚えます。

コメント:もう一つ驚くべきはロバート・ケネディ・ジュニアの保健福祉長官任命です。ワクチン反対派をなぜという疑問がある一方で、問題はその人柄です。一見して、家柄に相応しくない下品さがあったのですが、町山のTV番組を見て、その理由が分かりました。32人の女性と関係を持ち、その詳細な記録を残したノートを前妻に見つかり、4人の子どもを連れて離婚しようとした妻を、精神異常と申し立て、子供の親権を奪ったのです。そのせいでうつ病になり妻は自殺しています。当然子どもは離反し、家庭の体をなしていません。信用できる人間かどうかは、私生活を見れば分かります。あのトランプにして、このケネディあり。洋の東西を問わず、性加害で問題を起こすような人間を、全面的に信用する方がおかしいということになります。これを米国民に対する、私からの警告です。しかもトランプが当選時の公約を守るという保証はどこにもないのです。なぜならこれまでも散々嘘をついてきているからで、今回だけは信用できるという理由がないからです。
関連記事:ケネディが閣僚入りする本当のやばさ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/11/524751.php#google_vignette

【関連記事】

・斎藤に踊らされた兵庫県民。広報ネタバレの深刻度。
https://toyokeizai.net/articles/-/842337

・ポピュリズムの到来。
https://toyokeizai.net/articles/-/842117
コメント:理性より、その場の雰囲気。最初の悪い例が小池百合子。そしてその後の女子アナやタレント出身の議員達。勢いのみ。口から出まかせ。大衆扇動。公約は不履行。脱法行為も自分だけは特別扱い。福祉には無関心。



2665.原発と津波 11.26

今回の前書きは朝日新聞【11.24】序破急、経済社説担当 西尾邦明から

東北電力女川原発が13年8カ月ぶりに稼働した。宮城県の牡鹿半島に立地し、東日本大震災で被災した原発である。
あの日、原子炉建屋の敷地に迫る13mの津波が押し寄せて地下設備が浸水し、火災も起きた。一方、発電所は直後に体育館を住人に開放し、約3カ月間、最大364人が避難生活を送った。

大事故を起こした東京電力福島第一原発との違いは、どこにあったのか。
東北電の土木技師だった大島達治さん(95)は「結果責任を負う経営者の在り方の問題だ」と指摘してきた。

東北電は1960年代後半の設計当初、津波の高さを3mと想定したが、最終的に敷地を海抜14.8mに引き上げた。原発は海水をポンプでくみ上げて冷却に使うため、高い場所につくるほどコストがかかるにもかかわらずだ。

大島さんによると、やはり土木技師出身で当時顧問だった平井弥之助・元副社長(86年没)が、貞観地震(869年)級に備えるために「15mでなければならん」と強硬に主張した。平井は津波銀座の三陸での原発設置に反対の意見だったが、「どうしても現役がやるなら」と社内委員会の立ち上げを求めたという。

対策は過剰との見方も強かったが、経営陣は平井の警鐘を受け入れた。それが約40年後に女川原発を救った。「法律を尊重しながらも法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が問われる」。これが、平井の日頃の指導だったという。

東電も福島第一の津波対策を見直す機会があった。東北沖で津波地震が起こる可能性を示した国の「長期評価」を受け、2008年に東電の現場担当者は最大15.7mの巨大津波を見積もったが、経営幹部は対策を指示しなかった。

09年の国の審査会合では、地質学者の岡村行信氏が貞観地震の考慮を求めた。議事録によれば、東電側が今後の検討課題にしようとしたのに対し、岡村氏は「納得できない」と食い下がっている。

福島の事故は「想定外」ではなく、想定が間違っていたのだ。元日の能登半島地震は、複合災害時の避難の離しさを突きつけた。女川も含め、原発周辺の住民からは、避難計画の実効性への不安が出ている。「法令に定める基準を超えて結果責任が問われる」。そう説いた平井の理念を改めて確認したい。



2666.兵庫県民とSNS 11.27

今回の前書きは、サンデー毎日から3件です。

「兵庫県知事選の民意とSNS」鈴木哲夫から
(前略)「SNS」や「YouTube」などネットを駆使した選挙は、いまに始まったことではない。東京都知事選の石丸伸二氏、衆院選での玉木雄一郎氏らが流れをすでに作ってきた。

しかし、今回の兵庫県知事選は、捏造情報や誹謗中傷が飛び交った。ネットの世界で選挙に関する規制はない。スマホに依存する生活の中においては、ファクトチェックもない根拠不明の情報ですら、投票の判断材料になる時代だ。

SNSには真実もあれば嘘もある。それを見抜けるのか。ファクトチェックは誰がやるのか。SNSやネット選挙の功罪を政治家や国会、有識者、既存メディアが本気で検証すべきだ。放置すれば、民主主義の根幹である選挙そのものが壊れていく。私は30年以上テレビ局に在籍し、還挙報道と関わってきた。その立場から問題提起したい。

テレビの選挙報道は、放送法などにより突っ込んだ報道をしない。そのため、規制なく情報がアップされるSNSやYouTube に有権者の関心は向く。今回、テレビの選挙報道のあり方が問題だと新たな課題のように論じられているが、長い間さまざまな形で 問題化し、試行錯誤を続けてきた歴史がある。

2005年の小泉純一郎首相による郵政解散。このとき、テレビ報道は小泉劇場に乗せられた。

「一斉にではなく、1日ずつ話題の候補を発表する。結果的にテレビは連日自民党候補を垂れ流すことになってしまい、自民党を盛り上げてしまった。郵政民営化に賛成か反対かの二者択一選挙で、賛成が善、反対が悪のような偏った報道になった。ワイドショーの格好のネタであり、劇場型選挙に乗せられた」(当時のキー局報道局長)
(中略)
16年の参院選報道の際、BPO(放送倫理・番組向上機構)に視聴者から、「公平公正、平等といって中身も浅く、全体の放送量が減少した」「有権者の判断に必要な情報を十分に伝えたのか疑問」などの意見が相次いだ。BPOは審議し、次のように結論づけた。

〈放送法や公選法(公職選挙法)は、選挙に関する番組作りを「公平」や「中立」と いう概念でその違反を規制して取り締まろうとしているのだろうか。法律を正しく理解すれば、そうではないことが明らかになる。むしろ、選挙に関して、国民に十分な情報を伝え、多様な切り口で評論することこそが求められているのであり、放送はもっと自由で多様であることが望まれる〉
(中略)
ただ一方で、テレビにしか果たせない選挙報道の役割がある。それは「ファクトチェック」だ。

今回、SNSやYouTubeでは、斎藤知事のパワハラ問題は捏造と拡散されたり、逆に敗れた稲村和美氏については「当選すると外国人の地方参政権が成立する」などの偽情報が拡散されたりした。

ネットで拡散する情報については、徹底したファクトチェックが必要だ。テレビ報道は、常日ごろから物事の裏を取り、相反する両者を取材し、そして事実を 1本のニュースとして出す。SNSで流れる根拠不明の情報をファクトチェックする力を、テレビは持っているのではないか。ファクトチェックはある意味、「政治的に公平である」ことを担保するために必要な作業である。

別のキー局の報道局幹部 は、「いろんな誤情報が出回ってSNS上で騒ぎになったとき、真偽を取り上げるべきだった。それをやるのが報道なのに、選挙期間中だからと二の足を踏んだ。次は…」と意を決して話した。期待したい。

反省と衿持。テレビの選挙報道は、大きな節目に直面している。

コメント:忘れもしない。立花が斎藤の疑惑は全部嘘だと応援演説でぶち上げたことだ。未だ百条委員会の結論も出ていないのに、なぜ無罪だと断定できるのか。(SNSでは委員会がシロと言う結論を出したというトンデモな情報まであった。しかもそれは立花の応援演説に金を出した(=買収行為)某社長が伝えた情報だと立花は言っている。ところがTV局はあろうことかこの立花の演説を延々と垂れ流したのである。稲村の演説はほぼ放送されなかった。このどこが公正公平か。その時、私はTVは報道機関として信用できないことを悟った。これはTV局こそファクトチェックの役割を果たすべきだという鈴木哲夫の論法とも一致する。だから、TV局はこのさい、大塚耕平が惨敗した名古屋市長選を徹底分析して貰いたい。


2番目はサンデー時評 高村薫 「国民民主よ、103万円の壁より賃上げだ」から
政府の総合経済対策に向けて、いよいよ自公と国民民主の政策協議が始まった。「手取りを増やす」策として、所得税の課税最低ラインである年収103万円を178 万円に引き上げる国民民主の要求、実現すれば地方交付税を含め 7〜8兆円の税収減になると見られている上に、恒久減税となるため、埋め合わせの財源確保も容易ではない。また、確かに当面の手取りは増えるが、それが税収減を補って余りあるほどの経済効果 につながると見る向きも少ない。

いまや流行語になった「103 万円の壁」であるが、少し冷静になる必要があろう。
(中略)
ところで、「手取りを増やす」正攻法はやはり減税より賃上げである。なぜなら減税で生じる税収減は、本来回るべきところに予算が回らないことで種々の停滞や公共サービスの低下を引き起こし、減税の効果も相殺されるからである。それよりも、順当に貿上げが進めば「103万円の壁」など自然に消えてゆくし、減税という一律のバラマキと異なり、賃上げは広く消費と景気の拡大に直結し、企業の収益増と買上げの好循環が生まれれば経済は大きく動き出す。

国民民主はまず、減税の対象世帯を圧縮してほしい。その上で、時給の引き上げや非正規雇用の正規化を含めた賃上げの実現を目指して、自公よりも経済界や大企業を動かす論陣を張るべきだし、それでこその野党ではないか。

コメント:嫌なのは103万円という数字が独り歩きしていることです。


3つ目は、これはアレだな 高橋源一郎 「さよなら、俊太郎さん」から
谷川俊太郎さんが亡くなったことを教えてくれたのは、詩人の伊藤比呂美さんだった。15日の金曜日の夕方だった。まだ、そのニュースはどこにも出ていなかった。

(中略)翌朝、ぼくは斎場に出かけた。ぼくが着いたときには、比呂美さんはもう着いて、ぼくを待っていた。斎場には、なんの告知もなく、ご遺族の姿もなかった。式はなかった。ぼくと比呂美さんだけだった。最後の挨拶をしたい人は、前もって時間を決め、その人たちだけで、俊太郎さんが休んでいる安置室に向かうのだ。ぼくたちは、係の方に、小さな部屋に案内された。 係の方は、ドアの鍵を開けると「それでは廊下でお待ちしています」とだけいって離れていった。ぼくと比呂美さんは部屋に入った。

その小さな部屋には、柩と、その前に置かれた、とても小さな祭壇の他にはなにもなかった。花すらなかったと思う。そして、柩の中では、死に化粧された俊太郎さんが、穏やかな表情を浮かべて、眠っていた。

ぼくと比呂美さんはしばらく黙って俊太郎さんの顔を見つめていた。あまり哀しくはなかった。九十二歳の大往生だ。闘病生活をしているとは聞いていなかった。おそらく老衰だったのだろう。そう思った。少しずつ、静かに、生命の炎が衰えて最後に吹き消されるように亡くなったのだろうか。

俊太郎さんは目を瞑っていた。もうこの目が開くことはなく、それから、この頭脳から、あの素晴らしいことばたちが生まれだすこともないのだ。そう思うと、とても寂しい気がした。

「お父さんの徹三さんにそっくりだねえJ
ぼくがそういうと、比呂美さんは、
「ほんとに、そう!」と答えた。

俊太郎さんの父親は、哲学者の谷川徹三だ。

俊太郎さんは、そのひとり息子として可愛がられて育った。まだ十代で、高校を卒業してぶらぶらしていた俊太郎さんに、父親が進路はどうするのかと訊ねた。すると、俊太郎さんは、その頃ノートに書いていた詩を、父親に見せた。それを読み、感心した徹三さんは、友人で当代最高の詩人のひとりだった三好達治に見せた。それがきっかけとなり、俊太郎さんは『二十億光年の孤独』という詩集で、文学史上に残るセンセーショナルなデビューを飾った。序文を書いたのは三好達治で、徹三さんは、俊太郎さんがノートに書いた詩に一つ一つに〇やXをつけたが、結局、選ばれた詩はほとんど徹三さんが〇をつけたものばかりだったそうだ。哲学者であると同時に宮沢賢治の研究家でもあった徹三さんは、息子の「詩」を理解することができたのである。それから時が流れ、徹三さんが亡くなった。九十四歳の大往生だった。
(以下略)



2667.米国は病んでいる(wtwの主張)11.27

World Trend Watcher

Give us 10 minutes.
We will show you the world.
No News, No Life.


愚直に、世間の出来事や、
オピニオンを伝えて半世紀。
ネット情報配信のパイオニア。
昭和・平成・令和の語り部。
明日の為に、現在を見極めよう。

情報源が限られていても、
好奇心と根気さえあれば、
真実を知ることは、
必ずしも不可能ではない。


米国は病んでいる。

セックス・スキャンダルを起こし、
議会を襲わせて死者を出し、
司法の人事権を濫用して、
訴追を免れようとする。

プーチンとネタニヤフに肩入し
移民を弾圧し、
嘘と偽情報をまき散らす。
品性に問題のある人物を
大統領に選んだ国である。

いかに理想(民主主義)より、
現実(経済)を取ったと、
言い訳しようとも、米国民が、
正義感のない無法者に、
魂を売ったことに変わりはない。

コロナは中国から始まった。
今度は独裁政治、拝金主義、
差別主義、極右という毒素が
世界中に広がる恐れがある。
その対策の為に、民主主義国家と国連は
必死の戦いを余儀なくされるだろう。

神(善意)と悪魔(私欲)の戦いでは、
プーチン、ネタニヤフ、トランプと
これまでは悪魔が連戦連勝中。
彼らの国には、聖書もなければ憲法もない。
せめて日本だけでも、
アジアの民主主義と平和と人権を守るために
死に物狂いの努力を続けねばならない

日本を滅ぼす可能性がある国は
ロシアでも中国でもなく、
むしろ海の反対側の、
資本主義大国かもしれない。
平然と核を使えという、頭の足りない
議員がいる国のことである。



2668.高齢になるほど幸せに 11.28

今回の前書きはサンデー毎日(12.8)「高齢になるほど幸せになる」笹井恵里子から
(前略)
30歳から75歳までの人に「何歳まで生きたいですか」と聞いてみたところ「100歳以上」と答えた人は1割弱、飛も多かったのは「80歳」だったという。

「100歳を目指さない理由の多くは『寝たきりになりたくない』『人の世話になりたくない』というもの。 健康だったら100歳でもいいけれど、という考えを多くの人が持っています」(権藤教授)

しかし国内では年々、100歳以上(百寿者)の人口が増加している。1963年には全国で153人だったのが、(中略)2024年はなんと約9万 5000人。54年連続で過去最多となった。(中略)07年に生まれた子どもの約半数が107歳より長く生きるという。「ですから、いくら百寿者になりたくないと思っていても、現実には自分が100歳に達する可能性があります。その時にどういう生活をして、どんな気持ちでいるのかをイメージしておくことは老いを理解するために非常に重要でしょう」(同)

20年以上にわたり百寿者を訪ねて調査してきた広瀬信義医師(元慶應義塾大医学部百寿総合研究センター特別招聘教授)は、「80歳を超えて年を重ねていくと幸せ感が高まっていく」と話す。

「80歳ぐらいまでアクティブに働いていた人は、体力が落ちて動けなくなることに不安感やイライラが出てくるでしょう。それが100歳近くになると『できないのは仕方ない』と今の状態を受け入れられるようになるのです。百寿者の方に『今の生活はいかがですか?』と尋ねると、『とても幸せ』と答える人が大半 です。その幸せは孫やひ孫 生まれた(中略)とは違う。自分の子どもやヘルパーなど、どこかで自分を見ていてくれる人がいる。ひとりぽっちではないという感覚です。達観しているともいえますね。『地球とつながっている』と話した人もいました」

「自分の夢を実現させてきた。だから今幸せ」「心配してもどうしようもないので心配しない」「あと10年以上は長生きしたい」など、「達成感」「受け入れ」「希望」を口にする百寿者が多いという。

年を取るにつれて幸福感が高まりやすいーこれはスウェーデンの社会学者であるラルス・トルンスタム教授が提唱した世界で「老年的超越」といわれる。

権藤教授らは、百寿者よりもう少し年齢の低い85歳 以上の人を対象として調査している(中略)「『身体機能が低いけれども幸福感が高い』という人が23%ほど存在していたのです。つまり 長寿者にとって必ずしも『自立していない=不幸』ではないということです」

高齢者心理学を専門とし、権藤教授とともに先の研究を行ってきた東京都健康長寿医療センターの増井幸恵研究員は「高齢になるほど幸せの種探しがうまい。幸せ上手ともいえますね」と話す。そして「性格と寿命」には深い関係があるという。

「新しいもの好きなら最先端を求め、社交性が高い人なら他者との会話を楽しむ時間が長い。性格はその人の行動を形作ります」

性格の五つの側面で(中略)、健康長寿に最も大切な要素は「誠実性」。世界中の多くの研究からそう示されている。

「誠実性とは大きく三つの点で長寿に関係する」と増井研究員。
「まず、誠実性はセーフティーな性格ということ。ドラッグや過度な飲酒など法令違反や危険なことをせず、安全を尊ぶ。人との約束を遵守するためトラブルにも巻き込まれにくい。二つ目は、誠実性の高い人は自分が決めたことを続ける傾向にある。(中略)実際に就寝や起床の時間が一定、 毎日しっかり朝食を取るなど、ライフスタイル が定まっている人ほど病気になりにくく長生きをしやすいことがわかっているのだ。」

「そして3つ目として、誠実性は自信に結びつきます。何か目標を設定し、それをやり遂げることで自信がついて、さらなる目標に向けて邁進するという好循環を生み出 すのです。」(中略)

『老年的超越』を提唱したトルンスタム教授は、高齢になる『新しい自分に出会う』という趣旨のことを言っています。しかも今の70歳は、10年前よりも身体機能、認知機能などが確実に若返っていると報告されています。ですから人の目を気にせず、自由にやりたいことをやりましょう。 隠れた才能が開花していくはずです。開放性の高い方が60歳、70歳から新しい趣味を始め、100歳近くなって大きく実る方がたくさ んいるんですよ」(増井研究員)

年を取ってから新しいことを始める。60歳から始めたことも、百寿者になればキャリア40年となる。人から称賛されるような成果がなくても、続けることで新たな自信が生まれ、誠実性と幸福感が高まって健康長寿につながっていくのだろう。「運動でも日記でも、何でもいいですから自分が続けられるものを探してみるのも手」と、増井研究員。

だがそうは言っても、今現在、体のあちこちが痛いし、思うように動けなくて、やりたいこともないという高齢者もいるかもしれない。権藤教授は「ピンピンコロリ(元気に長生きしてコロリと死ぬ)」ではなく 「フニャフニャスルリ」を提唱する。

「世の中、健康であることが大事、健康でなければしょうがないというメッセージばかり。でも、そうできない人も相当数いるんです。そういう人が生きている価値がないかというと、もちろんそんなことはありません。だからピンピンでなく、フニャフニャしていていい。他者の力を頼りながらスルリと生活していい。そんなフニャフニャスルリの生活でも、毎日を楽しむことはできると知ってほしい」(以下略)


もう一本は、朝日新聞(11.27)月刊安心新聞+、「失望?妥当?世界で選挙の一年 民主主義 より良い仕組みへ」千葉大学院教授 神里達博から

今年は、「選挙の年」だった。 まず1月に台湾総統選があった。(中略)
このように特にアジアでは、開票の結果、与党が過半数をとれず、程度の差はあれ政権運営に緊張感を与える格好となるケースが目立った。そして周知の通り、同じ状況が日本でも出現したわけである。(中略)
それぞれの国の事情は異なるので、単純な整理はあまり意味がないだろう。それでも全体的な傾向としては、政権が過度に強くなることを人々は今嫌っているように見える。世界的なインフレにより、どこの国でも庶民の生活がひっ迫していることが影響しているのかもしれない。

一方、欧州でも童要な選挙が続いた。6月には欧州議会選挙があったが、私たちにはなじみが薄いので、少しその仕組みを確認しておこう。

これは5年に1度、EU加盟国の有権者が、その代表を選ぶ直接選挙だ。基本的なルールは共通するものの、選挙権・被選挙権を持てる年齢や、投票が法的義務かどうかなど、国によって異なる部分も少なくない。定数は時々変わるが、今年は720。おおむね人口比例で割り振られた数の議員を選出するが、小国でも最低6議席は配分される決まりだ。

面白いのは、各国から選出された議員が似た政治思想の下に集まって会派を作るという点だ。今回の選挙結果を見ると、多い順に中道右派の「欧州人民党」、中道左派の「欧州社会民主進歩同盟」、極右の「欧州の愛国者」など、多数の会派がある。国境を越えて右派の「愛国者」が結集するというのは、少し不思議だが。(中略)

とはいえ、今年最大のイベントはやはり米国の選挙だった。また日本でももちろん、重要な選挙がたくさんあった。だが議論が中途半端になるので、これらについては別の機会に譲ろう。残りの紙幅では、「選挙のあり方」について少し考えてみたい。

言うまでもなく、選挙は民主主義を維持する根幹だ。だが、その方法は実は、とても多様である。(中略)
たとえば、赤道直下の小国「ナウル」の議員選挙では、有権者は候補者の順位を書く。そして1位に1点、2位に2分の1点、 3位に3分の1点という具合に配点し、その合計で当選者が決まる仕組みだ。これは、よりきめ細かに民意を反映させることができる点で優れているといえるだろう。

このように、単なる多数決ではない方法を模索することは、民主主義をより深化させる可能性を秘めているといえる。数理的な考え方を「選択」に適用する試みだが、この種の議論の歴史は案外古い。(中略)

この他、今年はネットの影響にも注目が集まった。今後、さまざまなルールを設けることになるかもしれないが、そもそも技術は社会との相互作用で発展していくものだ。決して技術が社会を一方的に変えるのではない。私たちがどんな未来を望むのか、それこそが肝心なのである。

今年の選挙の結果に、落胆した人もいるだろう。また、世界には選挙自体が不適切な形で行われている例も少なくない。だが、だからこそ私たちは今後も、より良い選挙のあり方を求め続けるべきなのだ。民主政治に失望するのは、まだ早い。

コメント:いや早くない。もういい加減に失望して、対策を講じるべき時期に来ている。今の選挙は、大衆の気持ちは反映いるかもしれないが、公衆の判断や意識を反映しているとはとても言えない。理性や倫理より、雰囲気や感情が判断の基準に置かれている。そしてそれこそが、健全性と理性を欠いた政治が横行する、民主主義の変質における、基本的な問題なのです。



2669.政治をゼロから立て直す 11.29

今回の前書きは朝日新聞(11.28)から2件です。
論壇時評、選挙が示した変調 地べたから政治を立て直す 宇野重規から
何かが起きている。過去最多の 56人が立候補した東京都知事選に続き、低投票率下で与党が過半数割れを起こした衆院選、不信任によって失職した前知事が再選された兵庫県知事選と、驚くべき事態が相次いでいる。あるいはこれまでの政治の常識を覆す巨大な変化が生じているのではないか。新たな変調の時代が始まりつつあるのかもしれない。

衆院選のおさらいをしておこう。野党候補の乱立にもかかわらず裏金問題によって自民党が大敗する一方、立憲民主党は議席を大幅に増やしつつも野党との共闘は進まず、躍進した国民民主党が鍵を握ることになった。

政治学の中北浩爾は、ジャーナリストの後藤謙次との対談において、石破茂政権の誕生を「ポスト安倍」の最終局面とし、新自由主義と右派が主導する時代が終わり、自民党の伝統的な中道保守が復権したとする。ただし、ポスト安倍の状況は新たな秩序よりむしろ無秩序へ向かっているのではないかとの懸念を示す。

行政学の牧原出もまた、石破政権発足後最初の課題が旧安倍派の解体・清算であったとした上で、いかに安倍晋三元首相を乗り越え、自民党を再構築できるかを問う。鍵を握るのは政治改革であり、国会議員の政治資金を監督する第三者機関の設立を訴える。

これに対し、歴史学の木庭顕は、自民党の政権復帰後に確立した政治経済体制(『2013年体制』) は、衆院選後も変化していないとする。伝統的な利益調整が揺らいだ後に成立したこの体制において、利益争奪のために結託する徒党と宗教団体との癒着によって、政治の透明性は損なわれたままである。批判的な議論による合議としての政治のために、高等教育の立て直しを含めた市民社会の発展と、そのための政党の役割が 重要である。(中略)

ジャーナリストの佐藤甲一は、衆院選の意味を既成政党の凋落と新しい政党の台頭に見出す。 都知事選での石丸伸二氏の蹄進が、既成政治に嫌気がさした有権者の反発の結果だったとすれば、衆院選における国民民主党などの伸長は、それを身の回りの裏らしに落とし込み、物価高など生活に敏感な有権者梱者の支持に結びつけたことによる。一連の潮流を分析し、「新しい有権者のまなざし」f に向き合うことが政党の立て直しの鎚である。(中略)

反発の対象は既成政党だけではない。既成メディアヘの不信もまた加速している。兵庫県知事選で再選の原動力になったのはSNS や動画サイトであった。この場合、人々はSNSを信じたというよりも、SNSをきっかけに、 既成メディアの報道を信じない意 志を表明したともいえる。

このことはもちろん、有権者がこのことはもちろん、有権者が既存の政党やメディアに判断を委ねず、自ら考えようとしていることの現れでもある。ただし、2世紀前の思想家トクヴィルはすでに

「自分で考えようとするほど、他人に動かされやすくなる」と指摘している。バラパラになった個人が自分で判断しようとして、むしろ他者の意見に依存してしまう逆説はSNSの時代にむしろ強まるだろう。

トクヴィルが対策として示したのが地域での自治の体験である。現代政治理論の早川馘がトクヴィルを論じ、文化人類学の小川さやかが精神病理学の松本卓也と「インフォーマルな仕掛けによる社会変革」を語る「現代思想」の特集「『自治』の思想」が興味深い。 NPO法人共同代表で東京・杉並で活動する内田聖子がいうように、「地べたから」民主主義を修復していくしかないだろう。

変調が生む不安に抗するためにも、足元から政治を立て直していきたい。「選挙の年」の終わりに向けて、強くそう思う。

コメント:「自治の体験」の重要性が指摘されている。我々が自分達の済むちっぽけな地域で、ああでもない、こうでもないと議論してきたことが、必ずしも無駄ではなかったことを嬉しく思う。


2つ目は防災です。「災害時のトイレ 7 日分は備えて」支援届くまで数日かかることも 鈴木彩子から
(前略)
災害時のトイレの備えは大丈夫?11月19日の世界トイレデーに合わせ、「災害時に安心できる栄養とトイレのおはなし」と題したオンライン講演会が17 日、開かれた。NPO法人日本トイレ研究所と武田薬品工業が主催。日ごろから備えておくべきポイントなどを紹介した。

会ではまず、2016年4月 の熊本地震で被災した男性(57) が、潰瘍性大腸炎を患う妻との避雛生活について講演。トイレが使える場所を探して、病院の駐車場で車中泊をしたことや、衛生用品が手に入らずに苦労した体験を語った。避難生活では、ペットボトルに取り付けて使える携帯型のおしり洗浄器が便利だったという。

日本トイレ研究所の加藤篤代表理事は、「自宅での災害時のトイレの備え方」について講演。1995年の阪神・淡路大震災でも、2011年の東日本大震災でも、今年の能登半島地震でも、トイレに汚物があふれてしまった現実をふまえ、「備えが無ければ、次の大きな災害でも確実に同じことが起こる」と、警鐘を嗚らした。

加藤さんたちの調査などによると、過去の大災害で被災した人のおよそ3〜4割、阪神・淡路大震災では6割超が、発災から3時間以内にトイレに行きたくなったという。一方で、今年1月の能登半島地霰で、発災から3日以内に仮設トイレが届いた避難所は、調査した中では10カ所中1カ所しかなかった。

加藤さんは「排泄は待ったなし。外部支援に頼るのはリスクが高い」。平常時に「これだけは絶対にやってほしいこと」として、洋式便器に袋をかぶせて、排泄物を凝固剤や吸収シートで固める、携帯トイレの準備を挙げた。

災害時のトイレの衛生は、感染症のほか、脱水などに起因するエコノミークラス症候群や誤嚥性肺炎などの予防としても大切だ。

加藤さんは、「自分が1日に何回トイレに行くか」を数えてみて、その数に「家族の人数」「1週間分(7日)」をかけ算すると、必要な携帯トイレの数が計算できるといい、平時から備えて欲しいと呼びかけた。

コメント:多分これが一番必要。次が水でしょう。



2670.もろい民主主義 12.3

今回の前書きは朝日新聞(12.2)から2件です。

オピニオン 記者解説 トランプ復権の意味、青山直篤から

民主主義はもろい。「トランブ復権」はその反省を忘れた冷戦終結時に源流がある
戦後に米国が主導した国際秩序は大義を見失い、「力と利益」優先の方向に向かう
トランブ氏は日米関係の根幹部分の見直しを迫る。日本の針路を改めて考える時だ

米大統領選でトランプ大統領がハリス副大統領に完勝した。第1次トランプ政権は混乱が常態化し、前回の大統領選では敗北を認めず連邦議会襲撃事件を誘発した。米国民はそうしたことがあっても、あえてトランプ氏を選んだ。第2次政権は第1次と比べても強権的な性格を帯びるだろう。

「トランプ復権」は民主主義の退潮を示すのか。むしろ、その本来の姿がむき出しになったと見ることができるのかもしれない。

そもそも民主主義は、危うさやもろさをはらむものだ。その自覚と反省がなければ、社会は劣化していく。「復権」への驚きは、私たちが抱きがちな民主主義への過信やおごりの裏返しだ。(中略)

第1次大戦と第2次大戦の戦間期が残した教訓は「野放しの資本主義が機能しないこと」だったとマゾワー氏(コロンビア大教授)は指摘する。

民主主義を掲げた米国では、資本主義の機能不全に対処するため、ルーズベルト大統領が公共事業による雇用創出などのニューディール政策を進めた。

第2次大戦は、資本主義を国家の力で管理・動員することにつながった。「戦後も教訓はエリートに共有された。各国が経済計画によって資本主義を飼いならし、国際的に調和させようとした」(中略)

しかし、こうした態度は米国民の広い民意に支えられたものではなかった、とマゾワー氏はみる。

策者が想起したのが、トランプが1987年、米紙ニューヨーク・タイムズに載せた意見広告だ。「米国は、自衛できる裕福な国を守るために金を払うのをやめるべきだ」「何十年も、日本などの国々は米国につけ込んできた。こうした国々の利益を守るため、我々が失っている人命と巨額の金の代償を、なぜ支払おうとしないのか」

トランプ氏は期せずして、エリートの信念頼みの国際秩序が長統きしないことを訴えていたのかもしれない。

数年後、冷戦が終わる。マゾワー氏は「1990年代にはゲームのルールを決めるのは西側世界だというおごりが広がった」と振り返る。民主主義のもろさが深く省みられることはなかった。

2001年の米同時多発テロ後、米国は民主主義の事業と位置づけた対テロ戦争に突き進む。

米国が中東への介入で国力をすり減らすなか、権威主義的な一党支配と資本主義を融合させた中国が勃興する。

資本主義の暴走がもたらした08年のリーマン・ショックはエリー卜層の強欲さと腐敗をさらけ出し、反発と冷笑主義を招いた。こうした動きが「トランプ大統領」を生み出す流れとなっていく。(中略)

焼け跡の原体験を欠く米国が、 世界の平和を守るためのコストを引き受ける戦後の構図がこれほど長く続いたことこそ、むしろ驚くべきことなのかもしれない。

マゾワー氏は「私たちには米国に頼れない世界を避けたい心情がある」としつつ、英仏独や日本といった「かつての帝国主義国家」にはそれぞれの歴史的な歩みについて内省を深め、国際システムを安定させるように働く重要な役割がある、と強調した。

コメント:自国、及び世界の安全保障を大国(の良心)に委ねるという、守られる側(と同時に大国にとっても)都合の良い論理の破綻は、既に始まっていたのに、それに気が付かないふりをしてきたのかもしれない。トランプ復権の、米国に政治形態がむき出しの民主主義の今こそ、我々日本国民も、米国に頼らない世界平和の方策を真剣に考えるべき時期に来ているのではないか。それが小沢の言う、国連を中心にした集団安全保障体制なのかもしれない。大国の国連での特権こそが、戦乱が続く世界の現状の障害であると考えることもできる。トランプの復権により、いやでも世界は歪んだ国際社会のスキームを見直さざるを得なくなるのだろう。


もう一件は声から学生の投書です。

憧れた一人暮らし半年が経ち 大学生 荒武 愛稀から
今春、大学に入学し、親元を離れて一人暮らしを始めた。小学生の頃から、あれこれ親から口出しをされる実家での生活に息苦しさを感じて、よく反抗的な態度をとっていた。そんな私にとって、自由に過せる一人暮らしは受験勉強の一つのモチベーションですらあった。そうして始まった憧れの新生活は、想像と大きく違っていた。

特に大変なのが食事作りだ。料理の経験がなかったので作ること自体に苦労した上、事前の買い物、食後の片付けなど、やることが山ほどある。他にも、掃除やゴミ出しなど、実際にやってみると思っていた以上に手がかかり、驚くことは多い。実家では家事を手伝っていなかったから、どれだけ自分勝手に生活して両親に迷惑をかけてきたか、そして甘えてきたかを実感した。

先月、居酒屋バイトで出た給料で家族を食事に連れて行った。両親はとてもうれしそうな顔をしていて、 私もうれしくなった。これまで与えてもらったことからすると、とても小さなことだが、少しずつ感謝を伝えていきたい。一人暮らしを通して家族を大事にするという言葉の意味が少しだけわかった気がした。

コメント:多分男子学生だと思うが、私も今それに似た環境にある。80近くになるまで自炊の経験がないままに、最近事情が変って厨房に立つようになった。が、いかに一筋縄では行かないかないかに苦闘の日々である。材料を買ってきて切ることくらいは出来るし、味付けもレシピに書いてある。ところが肝心の、煮物、炒め物、揚げ物の料理の具合が分からない。半生か焼き過ぎかかのいずれかになってしまう。でも毎食外食や弁当というわけにはいかない。ご飯は電気釜に任せても、おかずは自分で作らない限り暖かい食事をとることは出来ないからだ。
調理が、我が人生最後の試練になっている。
なお上記の投書でも分かるように、どんなに平凡な両親でも、子供を育てたというだけで、天国に行く資格があると思う。それが障害児なら無条件だろう。